7 分 2023年12月1日
スペーステックの好機~地上ビジネスの課題解決で宇宙へ乗り出す理由とは

スペーステックの好機~地上ビジネスの課題解決で宇宙へ乗り出す理由とは

執筆者 Brian Killough

Program Director, EY Open Science Data Challenge, Ernst & Young LLP

Global professional in satellite Earth observation data and applications. Family man. Handyman. Avid golfer.

EY Japanの窓口

EY Japan アシュアランス部門デジタルリーダー EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー

スペース×デジタル×サステナビリティで新たな価値を生み出すことを目指す。趣味はサウナとドラム。

7 分 2023年12月1日

アメリカ航空宇宙局(NASA)出身のBrian Killough博士がEYに加わりました。その専門知識とオープンサイエンスへの情熱をEYでも生かし、スペーステックの力を最大限に活用して地上のビジネス課題の解決を目指します。

Local Perspective IconEY Japanの視点

令和5年6月13日に閣議決定(改定)された宇宙基本計画では、宇宙産業を日本経済における成長産業とするため、宇宙機器と宇宙ソリューションの市場を合わせて、2020年に4.0兆円となっている市場規模を、2030年代の早期に2倍の8.0兆円に拡大していくことが目標とされています。EY新日本では宇宙ビジネス支援オフィスを設置するとともに、オーストラリアのEYスペーステックチームと連携して、宇宙・衛星データの監査・保証業務での活用や宇宙・衛星データそのものの信頼性確保に取り組んでいくことを公表しています。今後、宇宙技術の発展により、宇宙・衛星データから豊富な情報が得られるようになり、ビジネス上の意思決定に活用されることが想定されますが、EY新日本では宇宙から撮影した高解像度の衛星画像データにAI/機械学習を組み合わせて、建設業や不動産業の監査における工事進捗度予測に利用する研究を進めています。こうした活動を通じ、安心・安全に宇宙・衛星データを利用できる社会の構築に貢献していきます。
 

EY Japanの窓口

加藤 信彦
EY Japan アシュアランス部門デジタルリーダー EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー

衛星データが政府宇宙機関の手に届かないものというこれまでの概念から、この重要な地球観測データが品質面のみならず利便性面でも向上しているという理解へと、人々の認識は飛躍的に変化しつつあります。

私が特に重要視しているのは、衛星データの一般社会への浸透です。私は長年、オープンサイエンスを強く提唱してきました。そしてようやく、政府も民間企業もアイデアだけでなくアルゴリズムをも共有する時代を迎えています。それによって、全ての人に資するイノベーションとソリューションが加速しています。

私たちは今、EY Space Tech LabリーダーのAnthony Jonesが「一世代に一度あるかないかの技術革命」と呼ぶ、時代の真っただ中にいます。今はまさに、産業界が宇宙領域に参入し、ビジネスにとって衛星データがどんな意味を持つのかを各社が理解し始めているといったところです。今では誰もが見ることのできる衛星画像ですが、それらは、さまざまな解像度のデータと、あらゆる種類のセンサーによるデータに及びます。総じて、地球観測(Earth Observation、以下EO)データと呼ばれています。

EYでは、クライアントが衛星データを理解・信頼し、その可能性を積極的に検討できるよう取り組んでいます。EY Space for Earthは、幾つものシナリオを検索し、衛星データにより地球上の生活がどのように向上するのかをさまざまな方法で確認できるプラットフォームです。

EYがスペーステックに携わる理由

EYがどのような組織なのかを初めて知ったのは2019年のことです。当時、NASAは共同事業の中で、EYのオープンデータサイエンスチャレンジチームと組んで仕事を進めており、私はNASAの立場から、衛星データの統合をサポートしていました。現在、私はEYのチームとして、EY Open Science Data Challengeを引き続きサポートすることになっています。

私たちはEYが持つ深い専門知識をスペーステックに投じています。EYは素晴らしいデータアナリストや優秀な人材が数多く在籍する、多様性に富んだ組織です。EYのグローバル組織としての地位、さらにはデータおよびアナリティクスに関する専門性の深さは、スペーステックにとって理想的です。

EYでは通常、監査・会計業務の提供がクライアントとの密接な関係構築の発端となっています。クライアントの帳簿を監査する理由から、すでに双方には信頼関係があり、スペーステックがビジネスの他の側面に役立つ可能性について、経営幹部と話をする門戸も開かれています。こうした状況において、クライアントが衛星データを信頼できるよう支援することも、私たちEYの役目の1つだと捉えています。

信頼は絶対的に必要なものです。それまで専門外だと思っていたテクノロジーへ初めて足を踏み入れようとしているのならば、なおさらのことです。


スペーステックのビジネスケース

NASA出身の私にとって、この未開領域は心を躍らせるものです。スペーステックの参入により現実に起きているビジネス上の問題に取り組めるようになるためです。衛星データについては、「存在する難問題のうち、どのような点の解決に役立つか」や「日常業務上のどんな疑問を解決するのに役立つか」などを、EYと共に調査していくようクライアントに働きかけています。膨大なデータはすでに存在しており、あとはどんな問いを立てるかが重要です。私たちは現在、すぐに実現できそうなことから始めており、質の高い衛星データがすでに存在すると分かっている対象についてモニタリングをしています。また、データの質は常に改善されています。

NASAでの在職中、私は政府支援、特に発展途上国の政府を支援するというやりがいのある仕事に従事していました。当時、衛星データの活用による重要問題の解決支援に情熱を注いでいたことから、現在もこうした取り組みが産業界にも応用できるものと確信しています。

エネルギー分野にも非常に大きな可能性があります。衛星データが遠隔地にある資産の検査方法を大きく変えるかもしれません。鉱山事業者は、鉱山から港湾、鉄道、加工プラントに至るまで、実に多くのリモート資産を管理しなければなりません。私は、衛星データを購入したグループと話をしたことがありますが、彼らは次のステップにどう進んだらよいのか、データをどう解釈すればよいのか、よく分かっていませんでした。

EY Space for Earthには、そうした衛星データを詳細に分析し、予想ROI(投資利益率)を把握できる仕組みと能力があります。私たちは衛星データをどのように活用できるでしょうか。また、それは私たちの業務にどう役立つでしょうか。鉄道線路内への植生が侵入していないかを常時監視することや、古い鉱山の修復作業を監視することなどがその一例です。現在の様子や経時変化を事細かく追跡できます。とりわけ、宇宙から緑色の物体を確認するのは容易です。というのも、地球観測画像では、緑はよく目立つからです。

EY Space for Earthを開発する中で、EOデータを使用したケースの1つに、水の貯留状況の監視が挙げられます。漏水箇所の検知と降雨後の状況確認の両方を行い、洪水が発生しやすい場所をより的確に把握するのが目的です。実のところ、こうしたことを衛星データで監視するのは比較的簡単ですが、内容の理解にはデータと分析の専門知識が不可欠で、自動化にはアルゴリズムも必要です。

いずれは、ハイパースペクトルデータ(※1)の利用も検討することになるでしょう。そうなれば、特定の種類の植生や植生内の特定の病気の細部を拡大(ズームイン)してそこに焦点を絞ることができるようになるはずです。この点では他にも、急速に発展している興味深い事柄があります。データの解像度が微細化していることです。このことによって、通りを歩く人間や、車、木々を見分けられるようになるかもしれません。機械学習と組み合わせれば、物体検出を自動化することで驚くべき何かが実現できるかもしれません。それは、宇宙からカメラで写真を撮るようなものであり、私たちの行く手には、クライアントと共にどういう応用が可能なのかを探求していく素晴らしい機会が広がっています。


宇宙戦略の必要性

すでに世の中に登場している中解像度のデータには、非常に多くの価値が手つかずのまま残されています。衛星データのビジネス利用が広がっている今、データから構築できる製品は数多くあります。NASAのランドサット計画や欧州宇宙機関のセンチネル衛星のデータは、実際には公開データで利用可能とされていましたが、数年前までは、主に利用していたのは政府機関や研究者のみでした。小規模の企業が製品を開発することはあったものの、EYと同じ規模の企業が、EY Space for Earthのようなスペーステック・プラットフォームを開発するケースはありませんでした。

現在、チャンスは山ほどあります。衛星データに注目し始めると、これを使って何ができるのかが見えてきて興味をそそられます。衛星データに関する新しいアルゴリズムが次々に生み出されていて、いつも驚かされます。つい先日もジャック(Jack White博士)と水質に関する研究について話をしていて、何かアルゴリズムがないかを探していたところ、機械学習による新しい水質アルゴリズムを発見しました。しかし、それは誰かがすでに開発して公開していたものでした。

状況は変化しています。NASAは2023年をオープンサイエンスの年とすると発表しました。このことは注目を集めるものであり、スペーステックにとって今が好機である理由の1つとなっています。私は常に、世界中の人々が公開している優れたオープンアルゴリズムを探し出しては、クライアントのためにどう活用できるのか、ブレインストーミングを行っています。

現在、貴社に宇宙戦略がまだないとしたら、2つの問題があると考えられます。1つは、衛星データの活用によって、ビジネスを拡大し、効率や効果を向上できる可能性があるのにもかかわらず、その機会を手放していることになるからです。つまり、潜在的なチャンスを見過ごしているのです。

衛星データを取り入れれば、どの企業にも劇的な変化が起きるというわけではありません。役立ったのはほんの少しだけというケースもありますし、現在手作業で行っている業務の一部を置き換えるケース、あるいは徐々に成果が出るというケースもあるでしょう。しかし、スペーステックが大きな可能性をもたらすビジネスが存在するのは確かであり、それを探らないのは非常に大きなチャンスを逃す結果になりかねません。

もう1つは、最先端で未来志向の企業であると認知されるためには、宇宙戦略を立てる必要があるということです。仮に私が投資家で、2つの企業を検討しているとします。一方は宇宙戦略に無関心、もう一方は宇宙のビジネス活用を真剣に検討しているとしたら、私は後者に興味を持つでしょう。それは、その企業が未来を見据えているからです。

また、宇宙は優秀な若手エンジニアやデータアナリストを引き付ける最も簡単な方法でもあると言えるでしょう。若い人材を雇用し、企業の宇宙戦略の策定と導入を担ってもらう方法もあります。

世界は今、データとテクノロジーが全てである時代です。膨大な数のデータには、単に調べる必要があるデータや、私たちの業務改善にどうすればうまく活用できるのかを考えるべきデータがありますが、衛星データもそうしたデータの1つです。今は、より良い未来の構築に向けた大きなチャンスなのです。

Brian Killough博士は35年以上NASAに勤務し、現在は、NASAとEYの双方で衛星データとアプリケーションのコンサルタントおよびシニアアドバイザーを務めています。NASAの在職中には、地球観測衛星委員会(CEOS)のシステムエンジニアリングオフィス(SEO)のリーダーを勤めました。CEOSは63の宇宙機関などで構成され、社会に役立てることを目的とした、地球観測衛星データの調整を行う国際機関です。SEOはこのCEOSをサポートする部署です。Killough博士のリーダーシップの下、SEOはオープン・データ・キューブ構想、およびアフリカと太平洋諸島の地域データ・キューブの開発において重要な役割を果たしました。バージニア大学で理学士号、ジョージ・ワシントン大学で理学修士号、ウィリアム・アンド・メアリー大学で博士号を取得。これまでに30以上の技術論文を執筆し、2016年と2022年にはNASA Exceptional Service Medalを受賞しています。

※1 ハイパースペクトルデータ:通常の光学センサーよりも広い可視領域で観測できるハイパースペクトルセンサーによって取得できるデータで、より詳細な物体識別が可能になるため、今まで観測が難しかった対象物も観測できるようになると言われている。(参考:宙畑「ハイパースペクトルセンサーとは」、sorabatake.jp/28639/〈2023年10月26日アクセス〉)

サマリー

NASA出身のBrian Killough博士がEYに加わりました。その専門知識とオープンサイエンスへの情熱をEYでも生かし、スペーステックの力を最大限に活用して地上のビジネス課題の解決を目指します。

この記事について

執筆者 Brian Killough

Program Director, EY Open Science Data Challenge, Ernst & Young LLP

Global professional in satellite Earth observation data and applications. Family man. Handyman. Avid golfer.

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EY Japan アシュアランス部門デジタルリーダー EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー

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